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お持ち帰り

2018/11/08

長野オリンピックが
また話題にすらなっていなかった昔の話だ。
十二月頃だろうか、
長野市の新興住宅街で土砂崩れがあり、
何人もの犠牲者が出た。
私は、その事をテレビのニュースで知った。
次の日、仕事で元請の会社に行くと、
三階の窓から、ニュースで報道された事故現場が見えた。
山にへばりついているような住宅街の一部が、
抉り取られたようになっている。
「あそこは、元々そういう土地で、
住宅を建てるなんて、どうかしてるよ」
と、近くに住んでいるという社員が教えてくれた。
好奇心から同僚と一緒に、
事故現場に行ってみようという事になった。
事故現場に着いて、立ち入り制限の外から、
現場の惨状を見たのだが、
すぐに来たことを後悔した、
そのぐらいひどい状態だった。
その夜、
いつものように二階で一人寝たのだが、
夜中に目が覚めた。
部屋の中にだれかいるようなのだ、
寝ている自分の周りを歩いているような音がする。
ドン、ドンという音がして。
その音が遠くなったり、近づいたりする。
歩いているというよりは、
乱暴に足を踏み降ろしている、
というような音だった。
「しまった、あの事故現場から、霊を連れてきたんだ」
自分の軽率な行動を呪いながら、
蒲団をかぶって、
「早く、どこかへ行ってくれ!」
とだけ願っていた。
そのうち、音がしなくなったので、
おそるおそる、蒲団から顔を出して、明かりを点けた。
部屋に誰かいるような気配がなくなっている。
部屋の中を見回すと、
二階のベランダに出る、
窓が少し開いていた。
「そうか、この窓から出て行ったんだな」
と思った。
朝、同僚にこの事を話すと、
「窓を閉め忘れただけじゃないの」
と言われたのだが、
長野で十二月に窓を閉め忘れるなんて事はないはずだ。
そんな事をしたら寒くて眠れないはずだ。
その後、怪奇現象は起きていない。
好奇心で事故現場に行ったりしないほうがいいと思う、
霊のお持ち帰りは、シャレにならない。

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