ある日の夕方
2018/11/05
ある日の夕方・・・。
砂浜を散歩していたんだ。
太陽が沈むのには間があって、周りの風景は全て茜色に染まっている。
恐いくらい鮮やかな色だった。
そんな中、ゆっくりした足どりで歩くのはいい気分だった。
俺はこんな素晴らしい夕景に満足していたんだけど・・・。
30分程歩くと、防波堤に出た。
海に向かってずっと延びている岸壁、その先端に灯台がある。
ふと、その少し手前に誰かが前かがみになっている人が目に入った。
白い服を着た子供のようだ。
どうも様子がおかしい。苦しいのか肩で大きく息をしているのがはっきりわかる。
小走りで子供に近づいていった。
とにかく具合が悪いのなら、手助けしないと・・・。
「おい!どうした!!具合悪いのか!?」
子供の肩の辺りを叩いた。
するとその子供が俺の方を向いたんだ。
その瞬間・・・。
すーっと辺りが真っ暗になってしまったんだ。
今まで茜色に染まっていた風景が、
薄墨色も群青色も飛び越えて真っ暗闇・・・。
岸壁に打ちつける波の音しか聴こえない。
子供が何処にいるのかも見えない。
とにかく、尋常の暗さじゃなかった。
いくら時間が経っても目が慣れないんだ。
恐ろしくなって、思わず地べたにしがみ付いていた。
しばらく、動けないでいると、
やがて前方にチカチカと黄色い光が2つ見え始めた。
遠くの光じゃない。それどころかすぐ眼前で光っている。
「フー、フー、フー・・・」
息の音が聞こえる。
ズルッ、ズルッ・・・と何かを引きずる音も・・・。
そして・・・。
何かヌルっとしたものが俺の顔に触った。
その瞬間
「こいつの正体をみてやらなきゃあ」
なんて思ったんだ。
恐ろしくて仕方が無いのに・・・。
はいつくばっていた両手をやっとの思いで地べたから引き剥がし
前の方、黄色い光の点滅する方へ突き出した。
「えっ!?」
俺はバランスを崩して、
そのまま岸壁からまっさかさまに海に落ちそうになった。
何も無いんだ。
光も音も聞こえているのに、手はその光のもとに触れない。
血液が全部下に下がったような、嫌な気分におそわれた。
もう、手探りで砂浜側に戻ろう。
そう思って再び地べたに手を付いた。
「ねぇ、僕の顔見てくんないかな?」
耳元ではっきり聞こえた声。
それは子供の声だった。
何故か薄っすらと明るくなっていて、前方に砂浜が見えた。
でも、視界のすみに人間の顔がある。
白い服も見える。
俺は、すこし視線を右にずらした。
その顔を見た瞬間、物凄く後悔した。
振り切って逃げるべきだったんだ。
その子供は・・・いや、子供だと思ったのは・・・
グズグズに腐乱して膨張した水死体だったんだ。