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悲痛な叫び

2018/11/04

あれは俺が小学生の頃だった。
その頃俺は川釣りをしょっちゅうやっていて、
その日も放課後友達と釣りに行く約束をしていた。
家に帰って適当に仕掛けをつくっていると
友達が迎えにきたので近くの川へ向かってあぜ道を歩き始めた。
程なくして川へつき、釣り糸を垂らし始めた。
なんのことはない、いつもの小物釣りだ。
1時間ほど釣りをした頃だろうか、
先程通ってきた道から妙なコエが聞こえてきた。
最初は気にもならない小さな音だったんだが、
段々それがナニカの泣き声だとわかってきた。
ガボォ!ガボォ!グワァグァと。
2つの生物のようだ。
声から片方はカラスだとわかった。
尋常ではないその声に
少し心搏数が上がってきた頃、
友達が
『なぁ、なんか聞こえるよな?』
と、コンクリートブロックから立ち上がって
その方向をみながら尋ねてきた。
やはり気付いていたようだ。
『見に行こ』
そう誘われたが、
得体の知れない声が恐くて
行く気にはなれなかった。
『あの辺ならさ、どうせ帰るとき通るからさ、いいよ、まだ。』
明らかに声が上ずっていた。
渋る友達をなんとか座らせ、また釣りをしはじめると、
何時の間にか声は途切れていた。
日も傾き、そろそろ帰ろうということとなり、
2人で斜陽の中を歩き始めた。
あの方角へ。
川の土手に差し掛かったあたりだろうか、
土手の上へと続く道の中腹に
白いモノが落ちているのが見えてきた。
行きにはなかったものだ。
ビニール?最初はそう思った。
少し近づく。
ぬいぐるみ?
耳もある。尻尾も。
『なんだ、ぬいぐ…』
そういいかけた時、横にいた友達がつぶやいた。
『犬だ』
『犬?………犬だ。ホントだ犬だ』
さらに近づくが、犬は全く動かない。
寝てるのだろうか?にしてはおかしい。
そして、土手に植わっている木が太陽をさえぎり、
前方の視界が鮮明になった瞬間、
目の前の状況が一気に理解できた。
血だ。
鮮血、乾燥したドス黒い血。
白い犬の下から染みだし、
腹の毛が真っ赤に染まっている。
その中の、特に黒くなっている部分から臓物が力なく、
広がるように地面へと飛び出していた。
動けなかった。
2人棒のようにつったって、
只それを、有り得ない光景を見つめていた。
それから10秒ほどたって、俺が口を開いた。
『行こ』
2人、犬の骸を見ないように意識しながら
足早にその場を後にしだした。
しかし俺は骸とすれ違いざま、
変な視線を感じ、振り向いてしまった。
そこには、目玉のない犬の顔がこっちを向いていた。
目が無いはずなのになんで?
半開きになった口。
黒い2個の穴がこっちを見ている。
立ち去る足が一段と速くなった。
やがて土手を下り、
小さな橋に差し掛かった辺りで友達が口を開いた。
『あの声、あいつだよな。』
『うん』
『すごい声だったよな』
『助けてほしかったんかな』
『かもな』
それ以上会話は続かなかった。
友達とわかれ、家に帰り、明日の時間割りを準備し、
寝床に入ってもまだ、今日の出来事を反芻してしまい、
なかなか寝付けなく苦労した。
あの声とあの光景は今も頭から離れない。

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