寝台車
2018/10/10
自分の体験談じゃないけど、予備校で漢文の先生から聞いた怖い話。
彼(先生)は京大時代に親友のAさんと一緒に東京見物を終えた後、寝台急行「銀河」で東京から帰途につく事になりました。
――小田原を過ぎ熱海を過ぎ、夜も深くなってきました。
寝室に寝そべっていてもなかなか眠れない二人は、退屈になったので寝台車という物珍しさもあって、車内を見て回ろうという事になったのです。
そして最後尾の車掌室に車掌がいないことが分かると、若気の至りというのか彼らは車掌室のカギを壊し、中に入って窓を開け、酒盛りを始めてしまいました。
やがて「銀河」は静岡を過ぎ、「日本平トンネル」という長~いトンネルに入って行きました。
ところが「銀河」がトンネルの中程を行く頃、突然彼らの耳に男の大きな重たい笑い声が入ってきたのです。
「ウワァーッハッハッハッハッハッ!ウワァーッハッハッハッハッハッ!ウワァーッハッハッハッハッハッ!ウワァーッハッハッハッハッハッ!」
彼はこの笑い声を聞いた時、空耳だと思いました。
が、Aさんに
「さっき男の大きな笑い声が聞こえなかったか?」
と尋ねると、Aさんも確かに聞こえたと言います。
深夜の鉄道トンネルに人などいるわけがありません。
二人は背筋が寒くなり、顔も蒼ざめ、酔いもすっかり覚めてしまいました。
二人はしばらく動揺していましたが、結局「空耳だった」という事で忘れることにし、寝室に戻って寝ました。
早朝、「銀河」が京都に着くと、彼は、大阪に下宿のあるAさんを残して降り、自分の下宿に帰りました。
ところが翌日、彼は40度の高熱にうなされて寝込んでしまいました。
そしてだんだん、自分のベッドの周りに霊のようなものがうようよと渦巻いている事に気付いたのです。
「これはまずい」と直感した彼は、幸い除霊の方法を知っていたので頭から塩をかぶるなどして、除霊を行いました。
お蔭で彼は霊の呪縛から解かれ、熱も治まったので、晴れて普通の生活に戻ることが出来たのです。
数日後彼は、一緒に帰ったAさんの事が気になったので、Aさんの下宿に電話をかけました。
けれども電話は繋がりませんでした。
Aさんの実家にもかけました。
しかし実家にも帰っていませんでした。
ほかの友人にもAさんの事を尋ねましたが、誰もAさんと会っていません。
おかしいと感じた彼は国鉄(現JR)に、大阪駅で降りるはずだったAさんの事について問い合わせました。
しかし国鉄側が調べたところ、
「Aさんは大阪駅で『銀河』から降りていない」
ことが分かりました。
「銀河」は京都駅から終点の大阪駅まで停まりません。
つまりAさんは彼と別れた後、大阪駅に着くまでに姿を消したことになります。
Aさんは未だに消息がつかめていません。(終)