ネット上に存在する不思議で怖い話を
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笑い声と読経

2018/10/07

俺がまだ学生だったときの話。
当時、父親が入院してて、母親は夜勤がある仕事。
そんなわけで、深夜に母親が帰ってくるまでは、ほぼ一人暮らし状態。
中学~高校と6年間こんな生活だったころに体験した内の一つです。
その日はひどく疲れていたので、日課の歯磨きをしてすぐに床に就いた。
多分夜の10時ぐらいだったと思う。
アパート暮らしで4Fに住んでた。
外は大雨で窓をバチバチ鳴らす音を今でも覚えている。
季節は今頃だった。
疲れている割になかなか寝付けず、うんうん唸りながらも、ようやくウトウトしかけた頃だった。
「・・・アハハハハ・・・」
寝ている頭の先、窓の向こう側の方向から、すごく遠くで子供の笑い声が聞こえた。
それも複数の笑い声。
ちょっとだけゾッとした。
が、寝た時間が早かったから、その時は、この時間に子供が歩いていてもおかしくないよなぁ、ぐらいにしか思わなかった。
せっかく気持ちよく寝付きかけたのに、とイライラしていると、暫くして、
「アハ、ハハハ、アハハハ」
今度ははっきり聞こえた。
さっきよりも声が近い。
よく考えたら、雨音が激しい夜で、ここは4F。
路上の声など聞こえるはずも無い。
この時になって始めて、自分の体が動かせないことに気付いた。
やべ、金縛り?うそ?まじ?、
みたいな自問を繰り返しながら各関節に力を入れるも、まるで動かない。
ほぼまっすぐな姿勢のまま硬直。
声が出ない。
瞼に力が入ってるのは認識できるのに、目も開かない。
過去に何回か金縛りになったことはあったが、この時は異常なほど不安になって、どうにか動こうと大きく息を吸い込むと、
「ハハアハアハハアハハアハハアハハハアハハハハハハハアハハハ」
すごく近い。
窓のすぐ外。
しかも水平の位置から。
何人もの子供の笑い声。
ありえねぇ、ここ4Fだよ、洒落になんねえ、やべえよ・・・。
もう完全にパニック。
脂汗が出てるのが分かるぐらい全身の感覚はあるのに、まったく動かない。
子供の声は笑いながらどんどん近づいてくる。
一定の間隔だった笑い声も聞こえっぱなしになってきた。
「アハハハ!ハハハ!アハハハハハ!アハハハ!」
もう完全に頭の上。
耳が痛いぐらいのすごい大音量。
この辺からはついにあきらめて神頼み。
たすけて、すいません、ごめんなさい、なにもしないでください、云々・・・。
悲しいもので、こんな後ろ向きの言葉しか出てこない。
それでも必死に心の声を振り絞る。
でも、そんな想いとは裏腹に、笑い声は頭頂部まで近づいた後、あろうことか顔面を中心にグルグルと回り始めた。
子供の笑い声も怖いが、その音量の大きさに気が狂いそうになる程。
体も布団もぐっしょり汗まみれ。
体の感覚だけやたら鋭いのに、動かない、声も出せない、目も開かない。
どうにもならないストレスと得体の知れない笑い声、さらには耳をつんざくような大音量は、まさに生き地獄。
どれだけの間その状態だったか定かじゃないが、えらく長い時間に感じた。
もうだめかも、と思いかけたら、今度は右手の方向から遠くの方で別の声。
すごく野太い男性の声で、なにやらウーウー唸ってる感じ。
これまただんだん近づいてくる。
近づいてきてようやく、唸っているのは坊さんが念仏を唱えている声だと分かった。
太鼓のような音も混じってる。
グルグル回る大音量の子供の笑い声。
その右側からは大音量の坊さんの念仏。
頭が割れそうに痛い。
鼓膜も破れるんじゃないかと思いながらも、必死に、たすけてー!たすけてー!を連発。
もう声なのか爆音なのか分からないぐらいになって、本当にもうだめだ、と思った瞬間、フッと体が軽くなった。
「うわーーーー!」
声が出た。
ガバっと布団を蹴脱いで飛び起きると、今までの大音量が嘘の様な静寂。
ただ時計の音だけが耳に付いた。
深夜2時過ぎ。
「夢・・・でしょ?・・・」
自分に言い聞かせるも、全身汗でびっしょり。
体は小刻みに震えていた。
しかも、布団に入っていたのに何故か手足が冷たい。
普通に思い返すと怖いので、夢、夢、絶対夢!と無理やり納得させつつ、顔を洗うのと、喉の渇きを癒すために洗面所へ。
と、そこで愕然。
洗面所には、食卓でしか使わないグラスが。
しかも、水がなみなみと注がれている。
「うそ・・・」
洗面所にこのグラスを持ってきた覚えは無い。
というか、寝る前に歯磨きしたときは確かに無かった。
家には俺一人・・・。
子供の笑い声と、坊さんの念仏が一瞬頭をよぎる。
と、その時、
ガチャ!
洗面所から程近い玄関のドアが開く音。
ビクッ!と本当に飛び上がって、玄関に恐る恐る近づくと・・・、
「あら?あんたまだ起きてんの?」
母だった。
「・・・あ、うん、・・・ちょっと・・・」
しどろもどろになりつつもホッと一息ついた時、母が一言。
「あんた、顔真っ青やん。どうした?」
言われて玄関の鏡を見た。
真っ青と言うより真っ白。
まるで血の気が無かった。
ただ耳の周りだけが異常に赤かった。

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