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夏休みの思い出のはずが

2018/08/17

もう10年以上前になるけど、俺がまだ学生だったころの話。
そのころ同級生で仲のいい友達と二人でゲームしたりCD聴いたりしてよく遊んでたんだけど、たまたまその日はそいつの2歳下の弟も一緒に遊んでた。
たまにサッカーゲームや格闘ゲームするときに一緒にあそんでたから別に特別なことじゃなかった。
夏休み後半で、いつもどおりクーラーきいた部屋で三人でゲームしてたんだけど、誰ともなくずっと部屋の中っていうのも不健康だねっていう話になった。
それで、夏休みの思い出話になって家族といっしょにキャンプいったとか海行ったとかそんな話してたんだけど、せっかくだからこの3人でこの夏の思い出も作ろう、みたいな学生にありがちなちょっとイタくてアツい話になった。
そうは言っても急なことでお金使って何かするなんてことはできなかったから、無難に近場を探検しようって話になった。
で、昼の3時過ぎ頃に汗かきながら自転車こいで、目的の場所に向かった。
その場所っていうのがその友達の家から20分くらいのところにある低い山。
正式な名前があるのかもしれないけど友達の間ではハゲ山とか呼んでた。
その山にある山小屋に行こうってことになった。
その山小屋って何のために作られたのかわからないんだけど、工事現場によくあるようなプレハブじゃなくて屋根は瓦だし壁も土でできてるような小屋。
イメージ的には日本昔話にでてきそうな感じ。
で、その小屋っていうのが山の中腹にぽつんって建ってて、下を走ってる公道からも見えるんだけど、ただそこにはまともな道なんてつながってなくて、ほとんど獣道みたいのだけで歩いてしかいけないようなところ。
ハゲ山っていっても草とかあまり生えてないのはこの山とつながってる別の峰で山小屋がある山は草も木も茂り放題。
山に入っていけそうなところに自転車置いて、用意もろくにしていかなかったから変な草にさわってかぶれたりしたら嫌だなと思いながら、半分這うように獣道たどったのを覚えてる。
それで小屋についたんだけど、大きさは6畳もないくらいだったと思う。
一応小さい玄関みたいなのと、奥に押し入れみたいな物置の棚があって、炊事場とかそういうのは無し。
結構急斜面に立てられてるし山自体も小さいので、何のために建てられたのかは今考えてもよくわからない。
木の引き戸があってそれは開け放たれてたから普通にはいれて、すごい狭いのと昼間なので、小屋の中も普通に見えた。
全然怖いとかおどろおどろしいような雰囲気はなくて、むしろああこんなもんか、っていうくらい。
でよく見ると壁にこれまで小屋に登ってきた奴等が自分達の名前や日付を書き込んだりしてて、中には同じ学校の先輩の名前なんかもあって、来る奴は来てるんだねって話してたのを覚えてる。
家具なんかもなくて、ぱっとみて中見回してそれで終わり、っていうところだった
んだけど、その時に友達の弟が会話とかみ合わないこと言い始めた。
はじめはこっちが言ってることに適当な相槌でもうってるのかと思ったけど、どうも様子がへんで
「いや、そんなつもりじゃないですよ」
「そんなこと言ってないし聞いてません」
「来るんじゃなかったな」
みたいなことを普通に話すような調子で言ってたんだけど、だんだん声が高くなってきて
「そんなこと言ってない」
「嘘つきだ」
「まただ」
とか半ば叫ぶみたいに言い出した。
気持ち悪かったのが、なんかそれが女言葉で声色も妙に女性っぽいっていうか普段のそいつとは違う調子になってたこと。
目は宙を泳いでてこっちを見ようとしないし、顔は何か泣き出しそうな表情になってたから、はじめはこっちも何言ってんの、みたいな感じで流してたけどだんだん怖くなってきて、帰ろうってことになった。
で友達が手をひいて、帰ったんだけどその辺のことははよく覚えてない。
自転車はみんなバラバラに乗ってきてたんだけど、帰りも一人一台ずつ乗ってたと思う。
その弟は自転車に乗ってるときは大人しくしてたように思う。
友達はずっと、大丈夫もうすぐ家だから、みたいな声をかけてた。
で家に帰ってその友達の家の玄関に弟座らせて、母親よんで麦茶やらもってきてみんなで立って弟をとりかこんでたんだけど、やっぱり変なこと言いつづけてて、
「これはもうどうしようもない」
「(聞き取れず)・・・に違いない。間違いないよ」
「そんなこと言ってるからいつまでたっても・・・(聞き取れず)」
みたいな感じ。
友達の母親も背中さすったり声かけたりしてたんだけど、これはちょっとおかしいって雰囲気になってきた。
その内その弟が独り言じゃなくて
「うー、うー、あー」
みたいな声出し始めて、最後には背筋のばしてきっちりすわったまま、白目むいて口パクパクしはじめた。
そこで友達の母親が119番に電話して、すぐ救急車が来て母親とそこのおじいちゃんと弟だけ病院に行った。
友達の母親が連絡入れたらしくて、しばらくしたら友達の家で待ってたところにうちの母親が来て、一緒に弟が病院から帰ってくるのを待った。
晩になって友達の母親が帰ってきた時に、何してたのかって友達と二人一緒に聞かれたけど、あまりに異常だったから俺達がなにか悪いことしたんじゃないっていうのは明白だったみたいで、べつに怒られるようなことはなかった。
それからその友達からも詳しい事情きいてなかったんだけど、どうやら一ヶ月くらいどこか精神科の病院に入院してたらしい。
で、その後は家に帰ってきたんだけど、それからずっと同じ敷地内にあるもとはおじいちゃんとおばあちゃんが住んでた離れ(といってもごく普通の一軒屋)で療養(?)してたらしい。
今はどうしてるのかは知らないけど、狂って囲われてた感じなんだろうと思う。
その友達とは高校大学と別になったので徐々に遊ばなくなっていったけど、あの後弟の話はタブーになってたから詳しく聞いたりしたことなかった。
で、その小屋っていうのが今もあるんだけど、突撃する人います?
当時よりツタとかに覆われてて国道から見上げても分かりにくいけど、もう近くまで家が建ってきてるし、山をはさんだ道路の向かいにはコンビニもあるような場所です。
近くの人がこれ読めばピンとくるかも。
未だにその場所が原因なのか、単に弟がおかしくなっただけなのか分からないんだけど何故か思い出したもんで。

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