闇の恐怖
2018/07/15
俺が高校生の時、体験した話をさせて頂きます。
大体今と同じくらいの時期のこと。
少し肌寒い秋の夕暮れ部活で帰宅が遅くなってしまった俺はかなり家路を急いでいた。
理由は確か、腹が減っていたとかくだらない理由。
駅の駐輪場から勢いよくチャリで飛び出した俺は部活で疲れているにもかかわらず猛スピードでチャリを飛ばしてました。
駅を出るとすぐに交差点。
国道のためか結構車の量が多い。
信号をみるとちょうど青信号だ。
しかしすでに点滅していていまにも赤になりそう。
さらにスピードを上げて交差点に突入した俺の目がこっちに向かって右折してくるスクーターを捕らえた。
「おぉぉぉ…」
急ブレーキのせいで思わず変な声が漏れる。
向かってきたスクーターの後輪がほんのちょっと地面を滑った。
が、結局、俺が止まり、スクーターが俺の前を通り過ぎて行った。
はずだった。
通り過ぎて行ったはずのスクーターが俺の斜め前で止まっている。
そしてスクーターに乗っているオッサンが俺を睨んでいる。
小心者の俺はこういうに慣れてなかった。
ヤバイ。
こうゆうのは関わらない方が…、が夕暮れの駅前にオッサンの大声が響き渡った。
「ガキィ!!どこみとんじゃ!こっち来いオラァァ!!!」
怖っえぇぇ!!やばいって!殺されるって!
気が動転した俺は、逃げた。
思いっきり逃げた。
後ろではオッサンがまだ叫んでいる。
後ろをみるとオッサンが追いかけて来ている!!
この時ふと
「ボコボコにしてやるか…」
といけない事を考えたが、逃げ続けた。
そんな勇気もないし多分負ける。
俺の鈍い頭で必死に逃走経路を練る。
そうだ!団地だ!
ポールが立ってるトコだからバイクは入ってこれない!
急いで近くの団地に逃げ込んだ俺の後ろからまだ声が聞こえる。
まぁこれで一安心だ…。
が、後ろを向いた俺の目にメットをかぶりながら走ってくるオッサンが映った。
「マジか…」
なんであんなに怒るんだ?
だが所詮チャリ(高校生)VS オッサン 。
どんどん間が広がっていった。
だが、ココは入ったことも無い団地の敷地。
迷ったら…。
そうおもった俺は何処かに隠れてオッサンをやり過ごすことに。
チャリはバレないようにそこら辺の駐輪場に停めて、マンションの建物の中に入った。
階段を上がって踊り場で息をひそめてオッサンをやり過ごした。
とりあえず暫くココにいよう。
そのとき、後ろから
「何してるの…?」
と中年女性の声が。
俺の後ろに怪訝そうな顔のオバサンが立っていた。
「あ、あの…隠れてたんすけど…ぇっと…」
しどろもどろだが正直にわけを話した。
すると
「じゃあウチで暫く隠れてなさい」
と言ってくれた。
最初は断ったが、半ば強引に俺は引っ張られていった。
玄関に入ると驚くほど何もない部屋があった。
中でお茶でも、と誘われたが失礼な少年の俺はココでいいです。
と玄関に居させて貰う事に。
礼を言っとこうと思い、後ろのオバサンに振り向いた瞬間。
目の前が真っ暗になった。
「?………え!!???」
部屋の電気が全部消えていた。
窓からも少しも光が入ってこない。
声をかけてもオバサンの返事がない。
ヤバい…。自分が立っているのか座っているのか、どっちが玄関かもわからなくなった。
手探りでドアノブを探して外にでたが外も真っ暗。
そんな馬鹿な!!俺はドッチに向かってるんだ?
ココはマンションだろ?
下に降りたいのに下がどっちか分からない。
周りは真の闇。
黒黒黒黒…
一体どれだけの時間がたったのか。
気がつくと俺はマンションの駐輪場の前でうつ伏せになってすすり泣いていた。
何日か後になってあの時のマンションは何だったんだろう?と思い、友人を連れて確認へ行った。
が、ソコにマンションは無かった。
正確には、駐輪場はあったがそこで団地の敷地は終了。
そこからは駐車場だった。
ありえない。
友人が信じてくれる筈も無く、そのときは
「パニくってたからなぁ…」
と強引に納得することにした。
その後、特に生活に支障もなくいままで暮らしてきたけど、あれから時々夢で、真っ暗になる瞬間の恐怖を思い出す。
上記したように本当に普段の生活においては何の支障もなかった。
暗いところが怖いと言うわけでもない。
只、夢で暗闇に包まれると発狂しそうになる。
だが発狂する間もなく、暗闇の中で俺の思考全てが消えていき、体中の毛穴という毛穴から体温が奪われていく。
光に満ちていたはずなのに一瞬で暗闇に変わってしまった部屋で俺は俺自身の存在全てが否定されるような恐怖感に包まれる。
言い表しにくいけど、何光年も地球から離れて一人ぼっちで宇宙に取り残される感じに似てるかもしれない。
そして夢から覚めるとうつ伏せですすり泣いている自分に気付く。
高校生の時の体験が心霊体験か、もしくは変なオバサンの手の込んだ「悪戯」か、今となってはわからないけど俺にとって死ぬほど怖かったのはバイクのオッサンでもオバサンでもなく「暗闇」だった。