峠の事故
2018/06/24
1999年12月10日、俺は福島県会津地方にあるN峠というところで自爆事故を起こした。
夜の9時過ぎ頃、峠道を下ってそろそろ人家が見え始めるというところで、ガードロープに激突。
原因は凍結路面でのスリップだった。
厳密に言うとガードロープを支える支柱に激突したんだが、ボンネットはグシャグシャ、エンジンルームの右半分が大破するような状態だった。
にもかかわらず、俺自身は運良くカスリ傷程度の怪我ですんだのだった。
ただし・・・激突位置がほんの少しでもずれていたら・・・
俺はたぶんその先の崖下へ真っ逆さまだったろう。
その事故から遡ること3週間ほど前。
俺は同じN峠を走っていた。
時刻は午後11時頃。
事故を起こした場所とは峠を挟んで反対の場所だったのだが、峠のてっぺんには長さ900mくらいのトンネルがあり、トンネルを抜けて1kmほど下ると金○橋という自殺の名所と言われる橋がある。
このあたりは、いつも走る時にはなんだかイヤ~な感じを抱きつつ走っているのだが・・・。
その橋に差し掛かる500mほど手前だったろうか。
俺の前を走っている車が、センターラインをオーバーして何かを追い越すような走行を見せた。
すると、前の車のライトに照らし出されて道路の左脇に人影が・・・。
ジーパンにスニーカー、トレーナーか?と思う服装だったが、若い男の後ろ姿だと見てとれた。
で、俺も続いてそいつを追い越そうとしたんだが・・・
俺の車のライトには浮かび上がってこないんだ、そいつ。
道路左脇は山肌の連続で隠れる場所なんかないし、道路右側は崖の連続だ。
何よりも前の車のライトから俺の車のライトに照明が切り替わるまで1~2秒じゃないか。
その間にいったいどこに隠れるっていうんだ。
俺は血の気が引いた・・・
後で聞いて知ったのだが、実はその場所で、ちょうど1週間前にバイクが大型トラックと正面衝突事故を起こし、バイクを運転していた若い男が即死したんだそうだ。
それから数日の間、俺は何人にもこの話をしゃべりまくった。
そして事故から1週間ほど過ぎた頃に行った、飲み屋でのこと。
隣に座った店の子が、
「Mさん、何だかオーラが弱いわね~・・・」
という。聞けばその子、その人のオーラ?のようなものを感じることができるとのこと。
「ううん、違う・・・オーラに怒りが混じっているみたいなんだ・・・」
と、言い直したかと思うと、突然、
「Mさん、その事故の話はもうこれ以上誰にもしない方が良いわ」
と言い出した。
でも、俺はその店に入ってからまだ誰にも事故の話をしてないぞ??
「オーラが、もうこれ以上話をするな、って怒ってるみたいだから・・・」
そう言ったかと思うと、急にこっちを向き直してまた彼女は言った。
「で、いったい何があったの?事故ったの?いつ?」
それから・・・やっぱさらに数人にも事故の話をしてしまった俺。
で、何事もなく2週間が経過したんだが、12月10日になって急に用事ができたため、再びあの峠を通るハメになった。
あの子に言われたのがひっかかっていた。
もうこれ以上誰にも話さない方が良い、と言われたことが・・・
イヤだな~、何もなければいいけどな~、と思いつつ、金○橋に差し掛かる。
何事もなく通過。
で、例の目撃箇所。・・・何も起こらない。
トンネル通過。
下りに入る・・・何も起こらない。
やがて、そろそろ人家が見えるかな、という場所に差し掛かった。
俺はホッとした、良かった~、何も起こらなくって~・・・ん?
前方に、ジーパンにスニーカー、トレーナー?姿の男が見えるが・・・
でも、あ、あ、あ、頭がないぞぉ~~!!
で、急ブレーキを踏んだ俺。
凍結路面、スリップ、ハンドル操作不能、そしてガードロープに激突・・・
激突の衝撃でフラフラしながら車を降り、ガクガクしている手足を操りながらふと前方を見ると、道路脇にたたずみこちらを向いている男の姿が。
俺は思わずそいつに向かって手を合わせた。
「命だけは助けてくれてありがとう・・・」
すると、そいつは・・・
まるでチェシャ猫のように、俺の目前ですぅ~~っと消えていった。