変わってしまった兄
2019/03/03
小学校に上がる前だと思う。
ある朝目を覚ますと隣で寝ている兄以外、
家に人の気配がなかった。
家中を見て回るが、誰もいない。
不安になって兄を起こそうと声をかけ、
肩をゆするが目を覚まさない。
どんなに激しく揺り動かしても
ぐにゃり、ぐにゃりとするばかりで
死んでいるかのようだ。
私は怖くなって家の外に出た。
雨が降っていて薄暗かった。
家の周りを泣きながら歩き回ったが、
家の外にもまったく人の気配はなかった。
泣きながらまた家に帰りぐずぐずしていると、
ふいと両親が現れた。
「どこにいってたの」
と聞いても答えてくれず、
「お父さんはここにいるよ」
「お母さんはここにいるよ」
と答えるばかりである。
訳が分からなかったが、
とにかく両親は戻ってきて私は安心した。
と、そこに兄が現れた。
兄の顔を見た私は息を飲んだ。
そこにいた兄は兄ではなかった。
背格好は似ている。
しかし昨日までの兄、
さっきまで隣で寝ていた兄と顔が全然違う。
目つきがきつい。
鼻が細く高い。
ほほがこけている。
髪がぺたんとしている。
あの不思議な朝のようなことは
あれが最初で最後だったが、
兄自体はそれからもずっと
兄とは思えない男の子のままだ。