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異様な気配

2019/02/26

現在もたまにやりますが、
目的地を定めず車で一人、
放浪旅に出るのは独特の楽しみがあります。
当時格安で先輩から買った中古車を自分なりにイジり、
夜間を中心にかなり遠くにまで出かけました。
これは、岐阜での出来事です。
車で下山途中、
今までいた山頂付近が夕焼けを背景にとても綺麗だったので、
車と山を被写体として撮影しました。
現像の仕上がりが楽しみで、
うきうきしていたのを覚えています。
自分で撮影した写真を、
毎年の年賀状に使用していたからです。
夜道はお手の物でした。
軽量な車で山道をとばす感覚は、
弱冠の私にとってたまらない愉悦の筈でした。
しかしこの日、
何故か無意識の内に予定を切り上げ、
一気に山梨まで距離を詰めていました。
疲労が蓄積し、
連休中だった事もあって、
適当な所でいつもの車中泊をしようと、
塩山市内をうろうろし、
とある大型スーパーの駐車場に入り込みました。
照明がこれでもかと煌々と照る明るい駐車場です。
くどいようですが、私は平素、
夜中の山奥でも平気で車中泊していたのです。
朝まで眠って、
ゆっくりと東京に帰ろう。
そんな心積もりで眠ろうとしましたが、
夏場、尋常ではない寒気がしました。
一人で車にいるのがたまらなく怖い。
こんな感覚は初めてでした。
何を見た、妙な物音を聞いた、
その類ではありません。
気配だけが異様に濃厚だったのを憶えています。
急き立てられるようにエンジンをかけ、
走り慣れた奥多摩を通って帰宅してしまおうと、
峠に向かって走りました。
周りから住宅が減り、
いよいよ本格的な山道、の手前で、
私は路肩の駐車スペースに車を入れました。
情けないことに怖いのです。
青梅までたった数十キロの山道を、
本気で怖がっていました。
塩山まで引き返し、
駅前などを彷徨していた所を警察に職務質問され、
理由を話すと、ご親切にも
パトカーの空きスペースを提供してくれました。
夜勤のお巡りさんの話に三時間、
ご相伴しましたが、
やっと眠ることができました。
連休が終わり出勤して、
現像した写真を先輩と二人、
談笑しながら眺めていると、
先輩が一枚の写真を私に示しました。
車の後ろから山をバックに撮ったあの写真でした。
車の天井部分に
首から上だけの女性と子供の顔が
はっきりと映りこんでいました。
あの気配は、
これだったのかとしみじみ納得しました。
その後何事もありませんし、
車も天寿を全うして只今二台目です。
努めて良い方向に考えるよう心がけています。

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