相乗り
2019/01/23
夏休みの朝、私は1人自転車に乗り
カブトムシを捕まえに出かけました。
家から15分くらいの所にある雑木林です。
その林は山の中腹にあり、
うちも檀家になっているお寺の敷地に接していました。
最初、お寺の左側で探していたのですが、
コクワガタしかみつからず、
お寺の右の林に行くことにしました。
このお寺は山のふもとから中腹まで敷地があり、
お寺を避けて林に向かうには
一度山を降り、お寺を迂回して登りなおさなければなりません。
子供の足ですし、
自転車を押して林まで登りなおすと、
20分以上かかります。
禁止されていましたが、
もしお寺の敷地内を横断すれば、
5分程度で行けます。
境内を自転車に乗っているのを坊さんにみつかって、
こっぴどく叱られた経験もありました。
男の子なら経験あると思いますが、
カブトムシの獲れる場所ってのは限られてますから、
早く行かないと他の子供に獲られてしまいます。
私は意を決し、
本堂前を通過するときは自転車から降り、
人目のないのを確認して
全速力で漕ぐという作戦で突破することを決めました。
本堂から母屋のあるあたりまでは平坦な道ですが、
そこから墓地の入り口までは上り坂です。
墓地の入り口から出口の門までは、
ゆるい下り坂になっていました。
私は墓地の入り口まで慎重に自転車を押し、
うまく誰にも見咎められず墓地入り口にたどりつきました。
ここからは一気に下るだけです。
おそらく1分もかかりません。
私は自転車にまたがると、
勢いよく漕ぎ出しました。
ここまでは作戦通りでした。
漕ぎだしてすぐでした。
お線香の匂いがしています。
ここは墓地ですから何の不思議もありませんし、
実際私も気にすることなく軽快に漕ぎ続けました。
すると
『のせて』
と聞こえたような気がしました。
振り返っても誰もおらず、
気のせいかな?と思い、
また漕ぎ続けました。
次の瞬間でした。
『たのしい』
今度ははっきり聞こえました。
私のすぐ後ろ、ほとんど耳元です。
当時の私と同じ歳くらいの女の子・・・・
そんな声だったと思います。
しかも誰か自転車の荷台に乗っている感じがします。
友達と2人乗りをしている・・・
あの感触です。
これで恐怖にとらわれた私は、
とにかく夢中で出口を目指し漕ぎました。
とにかく早くここから出なければいけない。
ただそれだけ考えていた覚えがあります。
すると
『もういい』
そう聞こえました。
聞こえた気がしました。
ただひたすら自転車を漕ぎました。
もうすぐで出口、そんなころ
『止めて、降りる!』
少し強い声のトーンで聞こえました。
私はほとんどパニックですから、
止まることなんて考えもできず、
恐怖のあまり操作をあやまり、
急ブレーキも間に合わず
出口の門柱に自転車の前輪をぶつけて
転んでしまいました。
怖くて目も開けられず、
転んだまま頭をかかえ、
しばらくじっとしていました。
たぶん1分か2分だったと思います。
肘と肩の痛さが恐怖を薄れさせ、
早く家に帰りたいとの思いもあり、
そっと目を開けて周囲を見てみましたが、
何もありませんし、誰もいませんでした。
ただ前輪が歪んだ自転車が倒れているだけでした。
肘に血をにじませたまま帰宅しましたが、
コケちゃった・・・それだけ報告しました。
あれは何だったのだろうと思います。
友達に話すどころか、
早く忘れてしまいたかったので、
誰にも話していません。
大人になり子供ができ、
「いっしょに遊んでほしかった子」・・・・
そんな分析ができるようになったので、
書きました。