燃やしてしまった本
2019/01/22
中学の夏休みの話。
家族で実家(島根県)に帰ってて、
掃除を手伝ってた。
掃除で出たゴミを、
裏庭にあるゴミ焼き場(ドラム缶)で燃やす任務を、
祖父より仰せつかった。
ゴミの中には古い本とかあって
「なんだこりゃ」
と興味を引かれた。
だけど、どれも中学生には難しい学問の本だったり、
超能力もモンスターも登場しない、
ガキにはつまらない文学小説ばかりだった。
ここにあるという事は不要なんだろう。
俺は片っ端から本を引き裂き、火にくべた。
そんな本の中で、異様に古い本があった。
今みたいな本の閉じ方じゃなくて、穴を幾つか開けて、
それを紐でくくって閉じてるような奴。
よく分からない絵ばかり描いてあって、
横にはミミズみたいな文字が添えられていた。
これまで見たホラー漫画やホラー映画よりも、
気配が異なる怖さを感じたんだ。
だから思わず、そのまま火の中に投げ入れた。
気を取り直してゴミを燃やし続けてると、
火の中から
「ああああああ」
みたいな音が響いて
ドラム缶の中で火が大きく爆ぜた。
爆発、という訳じゃなかったんだが、
音は大きかった。
その音に驚いた家族が駆けつけると
「スプレーでも燃やしたんじゃないか」
といって怒った。
天地神明に誓って言うが、
俺はスプレー缶も竹も、
そういうものを火にくべちゃいない。
実家から家に戻り、
俺が大学へ進学した頃。
祖父から親父に電話がかかってきた。
代々、その土地の氏子総代が引き継ぐ本が
見付からないらしい。
どこにあるか知らないか、
と尋ねてきたらしい。
親父は
「知らない」
と言うと、
そうかぁと困った声で電話を切ったそうだ。
当然、俺は「あの本だ」と思い出した・・・
が、怖くて何も言えなかった。
祖父はその5日後に亡くなった。
神社の階段から転げ落ちたのだそうだ。
祖父が死んだのは俺のせいなんだろうか。
呆然と座る祖母を見ると、胸が苦しかった。
葬式の間中、開けた障子から、
あの裏庭のドラム缶が見えていた。
祖父から無言で責めたてられている様な気がした。
今でも実家のドラム缶に近づけない。