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台風の夜

2018/11/08

一人暮らしを始めたばかりの頃、
俺の住む県に台風が直撃した。
その夜は眠りをさまたげるほど、
風がびょおお、と音を立てて吹き荒れ、俺は眠れずにいた。
そんな時だ。
突如玄関のチャイムが、ピンポン、と鳴った。
こんな夜中に誰が?と思いつつ、
俺は覗きレンズを覗き込んだ。
人がいる。
ぎょっとしたが、声をかけた。
「どなたですか」
「おう、○○、俺だよ」
「あれっ!?何だよお前、連絡もなしに」
その声は俺の友達の声だった。
だが、外が暗いのと、
帽子を深々とかぶっているので、顔がよく見えない。
そんなことはどうでもいい、
相手が友達だったという安心感に、
「それにしてもお前、この嵐の中よく来たなあ」
と言いながら鍵を開けはじめた。
だが、俺はそこで気が付いた。
彼には運転免許がない。
バスで来たとしても、
バス停からここまで、少し歩かなければならない。
それに、こんな風の吹き荒れる夜に
遊びに来るやつはまずいない。
一体何の用が?
俺はまた覗きレンズを覗いた。
「お前どうやって、ここに来たんだ?」
すると彼は、数秒の沈黙の後、
顔面を思いっきり覗きレンズに近付けてきた。
顔がロウ人形の様に白く、
目だけがリモコン操作されたようにギョロギョロとしていた。
それは俺の知っている彼ではなかった、
いや、それどころか、それは人ではなかった。
そしてそれは、口をこれでもかとばかりに横にひろげ、
にいぃっ、と笑った。
俺は腰が抜け、その場に座り込んでしまった。
我にかえると、急いでその友達に電話をした。
当然ながら、彼は来ていないと答えた。
その夜はますます眠れなくなってしまった。

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