兄バカ
2018/07/17
俺には昔弟がいた。
7歳年下で、兄バカって言われるくらい可愛がってた。
弟も俺によく懐いてて、近所でも評判の仲の良さだった。
中学の修学旅行に行く朝、弟が行くなと言って泣き出した。
小学校の時もあったことなので、困ったなーと思いつつも特別驚いたりはしなかった。
俺が行ってる間マイケル(犬)の世話頼むなーとか言って宥めて、ようやく出発した。
一日目の夕方、弟に呼ばれた気がして振り返るが、いるわけがない。
俺も気にしすぎかな、と思ってたんだけど、なんとなく心配になって夜に宿舎の電話で家にかけた。
弟が出て、何もなかったかと聞くと、昼寝をしている時に俺の夢を見たといった。
不思議だったけど、双子とか兄弟ってテレパシーのようなものがあるって聞くし、それみたいなもんかななんてちょっと嬉しく感じていた。
二日目の夕方、レクリエーションでいろんな建物を見て回っている時、俺は友達とふざけてて道路に飛び出した。
といっても、そこは建物の敷地内なので滅多に車が通らない場所で、かなり油断してたんだと思う。
クラクションに驚いて振り返ると、搬送用らしい大型トラックがかなり目の前まで迫ってた。
ア、っと思った瞬間からだが突き飛ばされたような感じがして、轢かれたー!と思って目を閉じた。
だけど実際は危機一髪で歩道に戻っていて、結局擦り傷程度で済んでいた。
トラックのあんちゃんが慌てて降りてきて、撥ねたかと思ったぞ!とこっぴどく叱られた。
その夜、また家に電話をするとまた弟が出て、またまた俺の夢を見たといってきた。
事故のことは話してないのに、どうろにとびだしたらいけないよ、はねられるとすごくいたいんだよ、なんて言うもんだから、ほんとに俺たちには目に見えない絆があるんだな!と浮かれていた。
だが、翌日帰宅した俺を待っていたのは、病院のベッドに寝たきりになっている弟の姿だった。
母親の話によると、前日の夕方買い物から帰ってくると、弟が昼寝をしている部屋からうめき声が聞こえる。
何事かと思って覗きに行くと、弟が息も絶え絶えの様子。
何かの発作だろうかと慌てて抱きかかえようとするが、身体に触れると異常に痛がる。
途方にくれて救急車を呼び、運び込まれた病院で検査してもらったら、結果は全身打撲。
だけどうちはベッドじゃないから落ちて身体を打つなんてことも無いし、そもそもそんなレベルじゃないらしい。
まるで、車に撥ねられたかのような…
俺は、あの時助けてくれたのは弟なんだと直感した。
俺のせいだからずっと付き添う!と言って(当然誰も信じなかったが)、その日から泊り込みをはじめた。
翌日、身の回りのものを持ってきてもらおうと家に電話をかけると、弟が出た。
あれ?今病室にいるはずだよな、なんで?と思ってると、すぐに母親の声に変わって、聞き間違いかー、とそのときはあまり気にしなかった。
電話を切って病室に戻ると、なにやら騒がしい。
弟の容態が急変していた。
その日の夜、弟は息を引き取った。
俺はその後数ヶ月悲しみに暮れ、動物が飼い主の身代わりになるって話は良く聞くのに、どうせならマイケルが身代わりになればよかったのになんてかなり酷いことも考えていた。
高校に入って俺は家にあまり帰らなくなった。
弟のことを思い出すのが嫌で、夜遊びばかりしていた。
ある日、いつものように遊び歩いていると家から電話が。
またか、と思っていつもなら無視するけど、そのときはなぜか出てみる気になった。
すると聞こえてきたのは弟の声。
おにいちゃんはやくかえってきて、ぼく、マイケルとあそんであげられないよ
それだけ言って電話は切れてしまった。
俺が慌てて家に帰ると、母親が電話中だった。
俺に電話が掛かってきた時間も話していたと言う。
だけど履歴にはちゃんと『自宅』の表示が。
玄関から追いかけてきたマイケルがじーっと俺の顔を見ていて、その顔を見ているとむしょうに泣けてきて俺はマイケルに謝りながら一晩中泣いていた。
今はそのマイケルもかなりじーさんになってしまったが、ちゃんと最後まで俺が面倒を見るつもりだ。
ただひとつ気になるのは、今も家に電話をかけると時々最初に弟の声が聞こえることがある、ということ。
嬉しいような、洒落にならないような。